むかし、かなざわの うみべの まち かないわが「みやのこし」と よばれて いた ころ。
どうにゅうじという おてらの ちかくに、ちいさな あめやが ありました。
よるは ひとどおりの ない、さびしい とおりです。
ある あめふりの ばん。みせを しめた あと、「こんばんは」と こえが しました。
くらがりに、わかい おんなの ひと。
「あめを すこし、わけて もらいたいがやけど」
いちもんの おかねを さしだしました。
おじいさんは おけの あめを のみで わり、ささの はに つつんで わたしました。
おんなの ひとは あたまを さげ、すーっと かえって いきました。
つぎの ばんも、その つぎの ばんも、みせを しめた あとに やって くるのです。
「まいばん まいばん、なんで あめを かいに おいでるがけ?」
きいても、おんなの ひとは かなしそうな かおで だまって いるだけ。
「よし、こんやは そーっと あとを つけて みよう」
おんなの ひとは、どうにゅうじの おはかの なかへ はいって いきます。
そして、おおきな きの かげで、すーっと きえて しまいました。
すると、どこからか かすかに なきごえが……。
はなしを きいた おてらの おしょうさんは、しずかに いいました。
「それは きっと、ぬのやの およめさんの たみさんや。あかちゃんが うまれる まえに、なくなって しもうたんや」
つぎの ひ、みんなで おきょうを あげ、おはかを ていねいに ひらくと――
しずかに ねむる たみさんの よこで、あかちゃんが ないて いました。
ちいさな てには、あめを しっかり にぎって いたのです。
「ちちの かわりに、あめを なめさせて おったんやなあ。たみさん、もう しんぱいは いらんぞ。この こは わしが りっぱに そだてる。あんしん しまっし」
その ばんから、おんなの ひとは にどと あらわれませんでした。
おとこのこは おてらで すくすく そだち、どうにゅうじの おしょうさんに なりました。
えかきに かいて もらった おかあさんの えは、いまも おてらに たいせつに つたわって います。
しんでも わがこを おもう、おかあさんの あいの おはなしです。